【映画】The Normal Heart

現在アメリカでは110万人がHIVに感染しており、6人に1人は自分が感染しているという事に気づいていないそうです。(若い人の間では60%が感染の事実に気づいていないという報告もあり)。そして世界では、毎日6000人以上が新たにHIVに感染しているようです。

 

5月25日にHBOで放映された、The Normal Heart を観ました。これはドラマGleeのco-producerであるRyan Murphyが、ラリー・クレイマー原作の同名の舞台をもとに作成したテレビドラマです。自身もゲイであるRyan Murphyは、2009年に原作の上映権を”思わず息を呑むような”高い値段で購入したそうです。それだけ本気である事を、原作者のラリーに知ってもらう必要があったのだと。

 

1981年から1984年にかけてNYのゲイ・コミュニティーを襲った、原因不明の”ゲイだけがかかる癌”。のちに原因ウイルスが特定され、AIDSという病名が発表されるまで、何千人もの人々が亡くなりました。マーク・ラファロが演じる主人公のNed Weeks(原作者のラリー・クレイマー役)は、この病気がゲイの間で広まり始めていることを知り、仲間たちとGay Men’s Health Crisisという組織を立ち上げます。

 

政府にこの原因不明の病気をリサーチするよう働きかけ、ゲイコミュニティには性交渉で広まっている可能性があることを伝えようとします。ところが、1981年当時、ゲイへの風当たりは強く、さらに”ゲイのみに広がる病気”として知られていたAIDS患者の窮状を広く世間に知らしめることで、ゲイに対する偏見がさらに増してしまうという悪循環。

 

40台にして初めて出来た恋人であるFelix(マット・ボマー)もこの病気に感染していることが分かり、さらに強硬に政府に対して調査を要求するネッドは、事をあまり公にしたくない仲間たちからも孤立してしまいます。

 

そして恋人の死。

 

1985年に、一般の人がHIV検査を受けられるようになるまで、一体どれだけの人が自分が感染していることを知らないまま、周囲に病気を広めてしまったのでしょう。政府も問題に気づいていながらも、ゲイ以外の大多数の人には関係ない、と全く調査する姿勢を見せませんでした。エイズの恐ろしさを記事にし、NY市長を激しく非難し続けたNedの姿を通して、”クレイジー”だと思われていた当時のラリー・クレイマーが直面した怒り、苦悩が苦しくなるほど伝わってきました。今では同性婚が合法化された国や州もあり、ゲイに対する偏見も昔ほどはひどくないのかもしれませんが、今の世代が当然の権利だと思っていることは、30年前には全然当たり前ではなかったこと、Nedのように批判をものともせずに戦った人々のおかげであることを忘れてはならないと思います。

 

主人公のネッドを演じたマーク・ラファロと、その恋人であり、ニューヨーク・タイムズ紙記者のFelix役のマット・ボマーの演技が素晴らしかった。若くて美しく、生き生きとしていたFelixが病に侵され、治療法もないままにどんどん弱っていく姿を見るのは辛かったです。途中から号泣でした。このドラマのテーマはエイズですが、ネッドとフェリックスの美しく切ない恋愛物語でもあります。マットはこの役のために、4ヶ月で18kgも減量したそうです。メイクの効果もあるのでしょうが、やせ細って骨が浮き、目が濁っている姿は本当に死期が迫っているようでした。マットは、ちょうどダラスバイヤーズクラブの撮影を終えたマシュー・マコノヒーに電話をしたそうです。マシュー・マコノヒーのエイズ患者姿も鬼気迫るものがありましたが、マットの顔色の悪さは本当に健康を害してしまったのではないかと心配になるほどでした。

 

現在ではエイズに対する治療法があるとはいえ、内服で完治するわけではなく、一生薬を飲み続けなければなりません。免疫不全により様々な感染症にかかる恐れがあったり、性行為で他人に感染させる恐れもあり、一旦感染してしまうと、これまでと全く同じ生活を続けるわけにもいかないと思います。アメリカの若い世代は、健康保険に入る余裕のない人々も多く、今後もしばらくはエイズによる問題は続くのではないかと思います。監督の意図したように、若い世代がノーマルハートを観て、エイズに対する関心が高まることを願います。

 

あからさまな性描写があったり、いろんなモノが見えたりしていたので、そのまま日本のテレビで放送するのは難しいとは思いますが、内容も素晴らしく、エイズやゲイの人権に対する啓蒙効果もあると思うので、是非日本でも観られるようになってほしいです。来月のエミー賞ノミネーションにも選ばれますように…。

 

 

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