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【ドキュメンタリー】Good Hair (2009)

【あらすじ】

アフリカ系アメリカ人のクリス・ロックは、幼い娘から、”パパ、どうして私の髪は good hair じゃないの? ” と質問される。幼い子供がなぜそのような事を考えたのか?クリスはアメリカの黒人女性の間で”good hair” とされているストレートヘアーに関する真相を探るためドキュメンタリーを製作した。

 

 

【感想】

このドキュメンタリーを見ることになったきっかけは、アメリカの美容室での会話だった。美容室で「ストレートパーマをかけたい」と相談したところ、アメリカで売られているストレートパーマ液は、黒人さん用の非常に強いものなので、決して薬局で買って自分で使わないほうがいいと忠告された。それで今月日本に帰国した時に日本の美容室でストレートパーマをかけたのだが、その時にアメリカの黒人女性はストレートヘアの人が多いという世間話をした。担当の美容師さんはフランスが大好きで、よくパリのサロンに勉強に行っていらっしゃる方。その方によると、パリの黒人さんは編みこみヘアの人が多いとのことだった。ストレートヘアはアメリカ黒人女性だけのトレンドなのか?そう思ってネットで情報を探しているうちに、Good Hairというドキュメンタリーがあることを知った。

 

テレビで見かける黒人女性のセレブは、皆さん見事なストレートヘアなので、ストレートヘアの黒人さんもいるのかと思っていたが、あれはストレートパーマか、weaver とよばれるつけ毛だったらしい。アメリカの黒人女性の間では、「ストレートヘアが良い髪だ」という共通認識のようなものがあり、ナチュラルな縮毛のヘアスタイルには強いコンプレックスがあるようだ。

 

彼女たちは、かなりの時間とお金をストレートヘアにつぎ込んでいる。アメリカの黒人人口は12%だが、彼らはアメリカのヘアケア商品の8割を購入している。黒人特有の縮毛は、”nappy” と表現され、髪の毛は”relax” した状態、つまりストレートでなければならないという。コメディアンのポール・ムーニーは、”僕達の髪がリラックスしていると白人もリラックスする。僕達の髪の毛がリラックスしていない(=縮毛)だと、彼らは不快に思う”とまで言っている。

 

黒人の縮毛をまっすぐにするパーマ液は「リラクサー」と呼ばれている。水酸化ナトリウムを主成分とする劇薬で、コーラのアルミ缶が溶けるほどの威力がある。このリラクサーが地肌につくと、まるで頭に火がついたような痛みを感じるそうだ。多くの黒人女性達(男性の一部も)は、毎回この痛みに耐えてストレートパーマをかけている。そして早い子は、2歳頃からこのストレートパーマをかけ始める。

 

Weaverというつけ毛は人毛を加工したもので、1000ドル〜3500ドルもの値で売られている。セレブたちは当然のようにこのweaverを使用しているし、一般女性の間でも流行しているという。地毛に縫い付けているので、いったん装着すると1〜2週間に一度サロンで洗髪しなければならないし、6週間に一度付け直さねばならず、メンテナンス費用もかかる。

 

このウィーバーはインド人女性の髪の毛を加工して作られている。インドにはトンシュアという宗教儀式があり、85%のインド人は一生のうち、少なくとも2回は剃髪するという。髪の毛は虚栄心と見なされており、坊主頭にして髪の毛を神に捧げるという意味合いがあるらしい。寺院で集められた髪は加工され、1000ドル〜3500ドルもの高値で取引される。持ち主のインド人女性には一銭も払われないし、彼女たちは自分たちの髪の毛の行方さえ知らない。他人が捨てた虚栄心を拾って身に付けるというのは皮肉な話だ。

 

このように多額の費用と時間をかけた大切な髪なので、たとえ彼氏や夫であっても髪に触れるのはご法度。黒人女性の髪は、いついかなる理由があっても触れてはならないのだ。

 

黒人女性の夫や彼氏は、彼女たちがストレートヘアを維持するための情熱を理解することを求められる。お母さんが黒人女性であれば、このような習慣は当たり前の事として知っているが、このストレートヘアに対する考え方は黒人以外にはあまり知られていないという。「Good Hair」が発表されたことで、今まで語られる事のなかったストレートヘア信仰が公になり、黒人女性からは批判の声も上がったらしい。

 

この作品を観て、オンライン英会話の先生のお宅にお邪魔した時の事を思い出した。その白人の先生は、10代の黒人の女の子を養女として育てている。その子は生まれながらにして重度の障害のため寝たきりで意思表示も出来ず、全介助が必要なため、ご夫婦で面倒を見ているとのことだった。ある時、黒人女性の介護人の方が来られた時のこと。その子の髪の毛が縮毛のままなのを見て、「なぜストレートヘアにしてあげないのか!」と非難するような口調で言われたという。その白人ご夫婦は、なぜ縮毛をわざわざストレートにしないといけないのか、寝たきりの子なのにパーマをかける必要などあるのか、と戸惑ったらしい。白人にとっては、黒人の女の子の髪が縮毛のままであることの何が問題なのかが分からなかっただろうし、黒人女性のヘルパーさんにとってみれば、ちゃんと可愛がってもらっていないとさえ思ったのかもしれない。

 

ストレートヘアになること=白人のような髪の毛に近づくこと、と考えると、いまだに人種差別が根底にあるのではないかと思える。黒人女性たちがしたくてしていることだから何をしようと自由なんだけれども、自然な状態である縮毛が悪いこと、と信じられているのは残念なことだと思う。クリス・ロックさんの娘さんの髪の毛も、綿毛のようにフワフワですごく可愛いと思うのだけれど。彼女も物心がつく頃には既存の美意識に影響されて「ストレートヘアになりたい」と思うのだろうか。

 

アメリカ黒人女性の髪に込められた思いを知ることが出来る良い作品だった。

 


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