【オーディオブック】Room to Dream (2018)

Room to Dream (2018)

By David Lynch, Kristine McKenna

Narrated by David Lynch, Kristine McKenna

時間:15時間47分

発音:アメリカ英語

評価:星5

 

2015年1月15日にデヴィッド・リンチ監督の訃報を知り、ドキュメンタリー「The Art Life」と、こちらのオーディオブック「Room to Dream」を聞きました。

 

Room to Dream は、Kristine McKenna氏が当時の資料や知人たちのインタビューをまとめた自伝を読みあげ、次の章でリンチ監督がその当時の思い出を自由に語るという珍しい形式のオーディオブックです。リンチ監督の幼少期から、2017年ツインピークスリミテッドシリーズまでが語られています。

 

子供の頃にツイン・ピークスにハマり、「ローラ・パーマーの日記」という本まで読みました。今回伝記を読み、あれは監督の長女さんが書いた本であることを知りました。

 

今取り組んでいる、「死ぬまでに観たい映画1001本」には、「イレイザーヘッド」「エレファント・マン」「ブルーベルベット」の3本が入っています。3本とも素晴らしい作品ですが、特に感銘を受けたのはエレファント・マンでした。ストーリーに感動するのは当たり前なのですが、とにかく映像が素晴らしかった。同じように世界を見ていても、こんなにも見え方、捉え方が違うのかと。Room to Dream では、エレファント・マンを監督することになった時、イレイザーヘッドしか代表作がなく、しかもイギリスでは全く知られていないため、“田舎者のアメリカ人“としてあからさまに冷遇するスタッフもいたそうです。デヴィッド・リンチ監督は、この作品に限らず、大声を出して怒ったり不機嫌な態度を取ることは全くなかったそうです。主演のアンソニー・ホプキンズの態度は特に悪かったようで、監督の演技指示に従わなかった様子が書かれていました。請われて編集前の映像を数人に見せた時などは。「酷すぎる。こんな作品に関わったと思われたくないからクレジットから名前を外してくれ」と言った人までいたらしいのです。エレファントマンは世界各国でヒットし、配給収入は23億円余りに上ったそうですが、完成前の試写で、それほど出来が悪かったということがあり得るのでしょうか。かなりの逆境を乗り越えての作品だったことがうかがえます。

 

イレイザーヘッドを初めて見た時は、ストーリーの異質さのみに注目し、“いまいち分からなかった“という感想を抱いてしまったのですが、学生プロジェクトとして、何もかもが手探りで撮影に4年、ポストプロダクションに1年かかった様子を知った今の状態で、ぜひもう一度見直したくなりました。商業的な成功の見込みもないまま4年間も自主映画製作に没頭していたため、ある日父と弟が「子供も生まれたんだし、映画制作はやめてマトモに働きなさい」と説得に来たエピソードもありました。製作中に妻は子供を連れて出て行ってしまいますが、リンチ監督からは焦りや不安は感じられず、創作に没頭する喜びのみが感じられて圧倒されました。

 

なぜリンチ監督作品に惹かれるのか。実生活では“不安“をなるべくなくしたいと思っているのに、監督が描く不安感や、物事の二面性に引き付けられてしまうのです。。頭の中のアイデアを鮮明に形に出来る表現力も素晴らしいです。亡くなってしまったのはとても残念でしたが、訃報をきっかけに、監督のアートライフや作品製作の裏側を詳しく知ることができたのは良かったです。

 

YL:7くらい

語数:139,500語(概算)

 

 

カテゴリー: ノンフィクション | タグ: , , | コメントする

ローマは一日にして成らず──ローマ人の物語

ローマは一日にして成らず──ローマ人の物語

【商品説明】

知名度のわりには、日本ではその実態があまり知られていないローマ帝国。1993年に新潮学芸賞を受賞した本書は、その帝国の歴史を人間の生きるさまから描いていこうという壮大な構想による「ローマ人の物語」シリーズ第一弾。ローマ建国からイタリア半島を統一するまでの帝国の誕生期にあたる多難な500年間に生きた王や貴族、庶民にまで焦点を当て、彼らの足跡と周辺の事情を丁寧に追っていく。

元老院と市民集会を定めた建国者ロムルス。暦を定め、多神教を守護神という概念で定着させた2代目の王ヌマ。息子のスキャンダルのためにローマ市民により追放された最後の王タルクィニウス。上下水道やローマ街道を最初に作らせた貴族アッピウス。そして、貴族の横暴に対して全員で山に立てこもり抗議する市民。

著者の筆にかかると、そうした人物たちが銀幕上の俳優のように生き生きと動き出す。「お互いに、古代のローマ人はどういう人たちであったのか、という想いを共有」していくうちに、帝国の歴史から元老院や護民官などの政治システム、そして何より古代ローマ人の考え方までをごく自然に理解できるようになる。本書は、退屈なものと決めつけられがちな歴史解説書にまったく新しい息吹を吹きこむことに成功した一冊である。ちなみにこのシリーズは、著者のライフワークとして1992年から2006年にかけて毎年1作ずつ書き下ろされていく。(鏑木隆一郎)

 

【感想】

2015年に購入した本を10年かけて読了!買った時は興味がなさすぎて半分で脱落したのですが、2024年末に映画グラディエーター2を観てローマに興味を持ち再トライ。今回は映画を観た後の興奮冷めやらぬうちに読み始めたせいか、最後まで読み通すことができました。とは言っても、全15冊のうちの1冊目。紀元前753年ローマ建国から前270年のイタリア半島統一までです。史実だけど物語のように楽しみながら読むことが出来ました。

 

私は高校時代、世界史がとても得意だったと思っていたのですが、グラディエーター2でロムルスとレムスが狼から授乳されている有名な像を初めて見た気がして、何もかも忘れていることに危機感を覚えたのです。あの時は歴史好きだと思っていましたが、高校卒業以来、歴史本を全く読まなくなったので何も覚えていないのも当然かも。

 

シリーズを全部読んでからローマ旅行に行くのが目標になりました。いや、そんな悠長なことではローマ行きを逃してしまいそうなので、シリーズを読み進めつつ、機会を設けてローマ旅行に行こうと思います。

 

 

目白庭園

カテゴリー: 和書 | コメントする

【オーディオブック】The God of the Woods (2024)

The God of the Woods (2024)

By Liz Moore

Read by Saskia Maareveld

時間:14時間35分

発音:アメリカ英語

評価:4.5

【あらすじ】

1975年8月の早朝、キャンプ場から13歳のバーバラ・ヴァン・ラーが失踪した。彼女はサマーキャンプの所有者であり、この地域の多くの住民を雇用している家族の娘だった。これはヴァン・ラー家の子どもが初めて失踪したケースではなかった。バーバラの兄も14年前に同じように姿を消し、いまだに発見されていないのだ。

混乱の中で捜索が始まるとともに、スリリングなドラマが展開していく。ヴァン・ラー家の秘密や、その陰で働くブルーカラーコミュニティの真実を追い求めながら、ムーアの複雑な物語は読者を秘密と再起のチャンスに満ちた濃密で心をつかむ世界へと誘う。

 

【感想】

2024年Goodreadsのミステリー/スリラー部門1位を獲得した作品。全然目にしたことがなかったけれども、これは納得の1位。

 

1975年に失踪したバーバラと、その14年前に8歳で姿を消した兄。2つの失踪事件が交互に語られます。時間を隔てた2つの悲劇が、物語の核を成しているのですが、バーバラの行方を追うキャリアの浅い若い女性捜査官の奮闘も心を掴む理由になっているのです。

 

序盤はゆっくりとしたペースで始まり、1970年代アメリカの森と、登場人物たちの心理が徐々に明かされていきます。一旦ふたつの事件の断片がつながり始めると緊張感が高まって、ぐいぐいと物語の持つ力に引っ張られて最後まで一気読みでした。

 

丁寧な情景描写と慎重なペース配分が、失踪事件を取り巻く霧のような不確実性を反映しているようでした。家族の軋轢が絡むミステリー好きにはオススメかも。

 

YL:7−8くらい

語数:130,500語(概算)

カテゴリー: Mystery/Thriller | タグ: , , | コメントする

【オーディオブック】Billon Dollar Loser (2020)

BY Reeves Wiedeman

Narrated by Will Collyer

時間:10時間51分

発音:アメリカ英語

評価:星4

 

We Workは、共同作業スペースやオフィススペースの提供を主とする企業で、 2010年にアダム・ニューマンとミゲル・マッケルヴィーによってアメリカで設立され、短期間で急速な拡大を遂げたものの、2023年11月に破産申請を行った会社です。名前だけは聞いたことがあったものの、破産申請ニュースで興味を引かれたので、リーブス・ウィーデマンの「ビリオンダラー・ルーザー」を読むことにしました。

 

本書は、WeWorkの共同創業者、CEOであったアダム・ニューマンのビジョンに満ちた起業家精神、歯止めの効かない野心、そして資本が生み出したバブルが最終的に崩壊するまでのプロセスを描いた作品です。

 

アダム・ニューマンの先見性

アダム・ニューマンは、そのカリスマ性と大胆なビジョンで、コワーキングスペースのスタートアップを世界的な現象へと発展させました。ニューマンの優れた点は、単なるオフィススペースの提供にとどまらず、コミュニティやコラボレーション、イノベーションといった物語を売る能力にありました。

 

彼は、従来の共有ワークスペースという平凡な概念をライフスタイルへと再構築し、「WeGeneration」といった用語を使ってミッション主導の文化を強調しました。

 

ニューマンは、投資家や従業員、一般の人々に「WeWorkは単なる不動産会社ではなく、テクノロジーによって社会を変える力だ」と信じさせる、ほとんど催眠的な能力を持っていたように思えます。彼は無限の未来像を描き、「世界の意識を高める」という野心を掲げました。この壮大な夢を描き、説得力のあるビジョンを示す能力が、WeWorkの急成長と巨額の評価額を支える鍵となりました。

何が問題だったのか?

しかし、ニューマンの先見性は同時に彼の破滅をもたらしました。WeWorkが拡大するにつれ、ニューマンのビジョンは現実を超えて進んでいきました。特に、日本の投資大手ソフトバンクからの莫大な資金によって、ニューマンは利益を度外視した無謀な成長を追求し始めます。波のプール、学校、住宅コミュニティなど、WeWorkの主事業とはほとんど関係のないプロジェクトを次々と立ち上げ、会社のリソースを分散させました。

 

ニューマンの衝動的な意思決定や浪費癖、自らのビジョンへの宗教的ともいえる信念が、次第に信頼を損なう原因となりました。プライベートジェットの使用やテキーラを飲みながらの会議といった逸話は、日常業務からますます乖離していくリーダーの姿を浮き彫りにしました。また、実態よりも過剰に誇張された話が目立つようになり、WeWorkのIPOのためのS-1申請で、同社の莫大な財務赤字やガバナンスの問題(ニューマンの過剰な権限や自己取引など)が明らかになったとき、彼の限界が露呈しました。

 

ソフトバンクが果たした役割

ソフトバンクの孫正義氏は、WeWorkの成功と崩壊の両方において重要な役割を果たしました。当初、ソフトバンクは巨額の資金を提供し、ニューマンの壮大な野心を後押ししました。孫氏の「限りないリソースで革新的な創業者を支援する」という哲学に基づきWeWorkに数十億ドルを投入し、評価額を一時的に470億ドルという持続不可能な水準にまで押し上げたのです。

 

しかし、この資金提供は危険な悪循環を生み出しました。ソフトバンクの資本によってニューマンの思い付きに際限なく資金が使われ、会社の損失が無視できないものとなりました。IPOの失敗でWeWorkの財務不安が露呈すると、ソフトバンクは全面的な崩壊を防ぐためにさらに高額な救済措置を講じる必要に迫られました。その結果、同社の評価額は大幅に引き下げられ、ニューマンは追放されることとなったのです。当初はニューマンのビジョンを支持していたソフトバンクの姿勢は、最終的に「監視のない過剰な資金供給のリスク」という教訓に変わったのです。

まとめ

本書は単にアダム・ニューマンやWeWorkの物語にとどまらず、カリスマ創業者が偶像化され、評価額が過剰に膨れ上がり、成長を追い求めるあまり財務や規律が犠牲にされる現代のスタートアップへの批評でもあります。WeWorkの盛衰とそこから得られる教訓が描かれており、起業家精神やベンチャーキャピタル、そして制御不能な野心の危険性に興味のある人にとって必読の一冊です。

 

読みやすさレベル:7.5

語数:98,000語(概算)

 

カテゴリー: ノンフィクション | タグ: , , , | コメントする

【オーディオブック】The Wedding People (2024)

The Wedding People(2024)

時間:11時間37分

発音:アメリカ英語

評価:4.5

 

2024年Goodreads のChoice Award フィクション部門1位に選ばれた作品。2024年度のGoodreads Choice Awardは各部門、全く知らない作品ばかりで、自分の選書アンテナが鈍ってしまったのかもしれないと心配になってしまいました。もしくは世界的なベストセラーにはならなかったのか。とりあえずフィクション、ミステリー、SF部門一位作品は読んでみることにしました。

 

The Wedding Peopleは、夫と離婚したばかりの教授フィービー・ストーンが主人公。夫も、その不倫相手も自分と同じ職場であったため、私生活でも職場でも居場所が無くなり、さらに飼い猫まで亡くなってしまったことで人生のどん底にいます。

 

死ぬつもりで思い出のリゾート地でホテルを予約したフィービーでしたが、何かの手違いで、そこは結婚式で貸し切りになっていたはずでした。

 

花嫁であるライラはお金持ちの一人娘。癌で余命短い父の担当医と恋に落ち、何億円もかけた夢の結婚式を成功させるため少しのミスも許さない勢いで、なぜ結婚式のため貸し切ったホテルにあなたがいるのかと、エレベーターでフィービーを問い詰めます。死ぬつもりで投げやりになっていたフィービーは今夜死ぬつもりであることを、見ず知らずの花嫁に正直に答えてしまうのです。

 

ここからはネタバレ感想。

フィービーと花婿が出会って恋に落ちる話だったら嫌だな・・と思いながら読み進めたところ、まさにその通りになってしまうのですが、話の運び方が上手いせいか、全然ロマンス寄りではなく、出来過ぎの嫌な感じはありませんでした。

 

最初はフィービーの鬱々とした内面が淡々と語られるだけで、一向に物語が動き出す兆しが見えないので、もうこれ以上読み進められないかもしれないと思いました。

 

ただ、自殺に失敗してからは、何か吹っ切れたのか、フィービーの態度が変わり始めます。自分に正直に、他人によく思われたいという欲も吹っ切れたためか、正直に接することで相手とも深い関係を築くことができるようになったのです。

 

ひとり自殺するつもりで豪華ホテルを予約した女と、結婚式に出席するために集まった“Wedding People“との対比や、予期せぬ繋がりが面白かったです。

 

オーディオブックのナレーターが、低く落ち着いた大人の女性の声で、離婚しどん底まで落ちた古典文学の女性教授というキャラクターにビッタリ合っていて、物語の没入感を高めていました。

 

良くありがちな、軽い読みものふうに始まったので、あまり期待はしていなかったのですが、さすがに読者が選んだ1位だけあって面白かったです。偶然の出会いを通じて人生が好転していく様子に気持ちが明るくなりました。

YL:7.5くらい

語数:87,847語(概算)

 

 


カテゴリー: Contemporary | タグ: , , | コメントする