砂の女

砂の女

【あらすじ】
欠けて困るものなど、何一つありはしない。

砂穴の底に埋もれていく一軒家に故なく閉じ込められ、あらゆる方法で脱出を試みる男を描き、世界二十数カ国語に翻訳紹介された名作。

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。(Amazonより)

 

【ネタバレ感想】
今年3月は安部公房生誕100周年とのことで、新潮文庫の100冊に入っていた砂の女を読みました。すごい本でした。読んでいる最中から砂の感触が不快に感じられて非常に不愉快な読書体験なのですが、先が気になってしょうがない。でもグイグイ読めないのです。主人公が生きていくだけで精一杯なのと同じくページを進めていくのも大変に感じられて。

 

砂に侵食される集落を生き延びさせるために砂かきをするだけの人生。家の敷地外に出ることは許されず、家の中にはテレビやラジオさえない。新聞さえ配給制という貧しい暮らし。もちろん脱出したいのだけれども、読み進めるにつれ、戻りたいと切望している元の教師生活も灰色な生活ではなかったのかと思い至るのです。今の砂防のためだけに生きる生活に意味はあるのかと憤っているが、そもそも元の生活も価値あるものだったのかと。自分の夢も希望も生気も砂に吸い取られていく読後感でした。

 

これだけ不快で重い本ならば、途中で投げてもおかしくないはずなのに、読む者の深層心理に揺さぶりをかけてくるような作品でした。

 

映画化された作品が死ぬまでに観るべき映画1001作品に入っています。勅使河原宏監督は、この作品で日本人で初めてアカデミー監督賞にノミネートされたそうです。今まで安部公房なんて読もうと思ったことはなかったけれど、生誕100周年の宣伝を目にしたり、大人買いして詰んであった新潮文庫の100冊に入っていたり、修行中の死ぬまでに観るべき1001作品だったりで、出会うべき作品だったのかもしれません。

 

 

ナミブ砂漠にて。ジメジメしたイメージの砂の女と違って灼熱の砂でした。

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