職業と人種

これを口に出してしまうと人種差別かもしれないと思ったのだけど、どうしてもこのモヤモヤする気持ちを書き留めておきたかったので。

不思議なほどに大学の清掃の人々が全員ヒスパニック系なのです。こちらに来て約1ヶ月、注意して観察してみましたが、大学に限らずこの地域では清掃員はヒスパニック系の方々のようです。バスの運転手さんはターバンを巻いたインド人のおじさんか黒人女性。バスの乗客が自分以外全員同じ人種の方々だと気づいた時はあまりの場違いさにヤバイと思いました。そして、この道路の向こう側は治安が悪いから近づかないほうがいいと言われた住宅街の住民はヒスパニック系と黒人が主。大学にいる専門職の人々や教授たちは多少人種のバラつきはあるものの、それぞれのコミュニティがある様子。

多様性ってなんなんだろうねと思ってしまったわけです。日本では人口の98％が日本人だし、残り2％の外国人も中国人と韓国人が多いので、少なくとも見ためで区別はつきにくい。なので、ある職業集団が人種で区別出来るという状況に、強い違和感を覚えました。

そしてスペイン語で話しているヒスパニック系の清掃員の方々を見て、なんだか胸が痛む自分にもモヤモヤ。気の毒と思う自分は”上から目線”なわけで、別に彼らは不幸せな訳ではないんだから、勝手に気の毒だと思うのは失礼だとは分かってはいるのですが。何世代前からアメリカにいるか、学歴、親の職業など、様々な要因があるとは思うのだけど、はっきりと目に見える格差に気持ちがついていかないのかもしれません。

アメリカに来て1ヶ月。生活自体はとても楽しいのだけど、今までのところ、悪いところばかり目につくような気がします。これも生活に慣れると気付かなくなって、何とも思わなくなるのだろうか。

＜今日の一枚＞

メキシコ系の清掃員の方々に対して申し訳なく思ってしまうのにはもう一つ理由があります。それは、動物実験施設の職員も全員メキシコ系なのです。

動物実験施設にいる動物たちはほどんどがラットがマウスなのですが、それぞれのケージが何千個とあります。日本では、それを研究員たちが自分でお世話します。何十箱もあるケージに餌や水をあげたり、糞を片づけたりするのは結構な重労働で、非常に臭いので、いわゆる３Kといわれる仕事です。医学部では医師も半分は診療、半分は実験をするので、診療の合間にマウスのお世話や実験をします。大学病院では医師不足が叫ばれていて、マウスのお世話に何時間もかかるくらいなら、医師は病院の仕事をしたほうが絶対に効率がいいはずなのに、それが出来ません。”職業に貴賎はない”という考えからなのか、単純に人を雇うお金がないのか。ただし、動物施設全体を掃除する人達はいるのです。その人達が動物の世話もしてくれればいいのだけど、公務員なので、”それは私達の仕事ではない”と言ってしまえばそれまで。医師の時給で動物小屋の清掃をするよりも、病院に人員を回したほうが効率的、というのは誰もが分かっていても実現できませんし、３Kの仕事を公務員である動物施設の職員がするはずもなく、何十年も前から状況はかわりませんし、今後変わるとも思えません。

　なので、皆が嫌がる動物実験施設の清掃をやっているのが全員メキシコ系の人達、という状況に、”研究者や医師は実験に専念できていいな”と羨ましく思う気持ちと、誰もやりたくない３Kの低賃金の仕事を、メキシコ系の人にやらせている、という罪悪感がからみ合って複雑な気持ちになってしまうのでした。

　博士号や医師免許を持った人達に、誰でも出来るような低賃金の力仕事をさせるのは効率が悪い、と考えるのは日本では傲慢なのかもしれないけど、アメリカではとても合理的なことのようです。