これまでさんざん私を悩ませてきた“借りパクさん”が、本日で2年間のアメリカ勤務を終え、C国に帰ることになりました。ホッと安堵のため息をつきながら隠していた物品たちを棚に戻すとともに、一抹の寂しさを覚えてしまいました。
彼女とはフロアは同じだけれども、元々は関係ない部署でした。それがうちのボスや同僚が同郷ということで仲良くなり、頻繁に出入りするようになったのです。予算の少ない私たちがとことん切り詰めてやっているところに悪びれもなくやって来ては消耗品を取っていく彼女にはほとほと参りました。しかも私が時間をかけて準備したものを無断で使い、「使わないで」「自分のを持参して!」と何回言っても全く改善がありません。「使ったものを今すぐ返して!」と返却させ、険悪な雰囲気になったことも何回かありました。それでも2-3日たつとまた現れてモノを取っていく・・・。その繰り返しでした。 「予算の無い私たちのものを使わないで」「私が時間をかけて準備したものを持って行かないで」と理由を説明しても改善なし。こんなに厚かましい人に出会ったのは初めてでした。
「他人の嫌がることをしない」というのは世界共通の常識だと思っていましたが、こんなにも気持ちが通じない人がいるということが驚きでした。しかも借りパクをするのは今回の借りパクさんだけではなかったのです。
借りパクさんの前任者も借りパクだった?
今回帰国した借りパクWさんの前任者、Dさんも借りパクさんでした。Dさんもうちのボスや同僚と同郷ということで仲良くなり、私たちの部署に出入りするようになりました。彼女の仕事の一部がどうしてもうちの道具や物品を使わないと出来ないということで、しばらく週に何回か私たちの部屋で仕事をしていました。そしてDさんはアメリカでの仕事を終えC国に帰国。彼女が帰国してから気付いたのですが、Dさんが借りていた仕事道具が一式全部消えていたのです・・・。彼女が盗んだという証拠はありません。ですが、帰国前の1ヶ月はDさんしか使っていなかったこと、彼女が仕事をするために必要な道具だけ1式無くなっていたことから、どうしても彼女に疑いの目が向きます。ボスが帰国したDさんにメールで問い合わせたところ「知らない」との返事でした。被害総額は15万円ほど。それ程大きな金額ではありませんが、無くなってしまった道具一式を再度購入して物品が揃うまで1ヶ月仕事が滞りました。
同僚が経験した借りパク3人組
私はテプラや文房具などを日本から持参したのですが、良い文房具等は目に付くところに置かないほうが良いと同僚に忠告されました。彼が一人で部屋にいた時、同じフロアのC国人3人組が入ってきて、皆の机や引き出しから文房具を取っていこうとしたことがあったそうです。パソコンや財布は盗らないので、“窃盗”という意識はないのかもしれません。私たちの建物は部署ごとに部屋が分かれているのでそれでも借りパク被害は少ないほうらしいのですが、垣根をなくす目的で1フロアぶち抜きにした建物では、頻繁に物品が無くなるそうです・・・。
借りパクというより窃盗
借りパクどころではない窃盗騒ぎもありました。私たちの部署に1年間所属し、C国に帰国したA氏がアメリカでのデータを持ち出し、母国で自分の仕事として発表していたのです。しかも彼自身の仕事ではなく、共有コンピューターフォルダに入っていた他人の仕事で。もちろんすぐにバレましたが、問い詰められても「部下が自分の名前を使ってやった」などと、あからさまな嘘をついてごまかそうとしていました。他人の成果を丸ごと盗むとはあまりにも大胆すぎて言葉になりません。ボスが皆の仕事をチェックしやすいようにと共有のコンピューターにまとめてデータが入っていたのですが、「まさか仲間の仕事を盗む人などいないだろう」と思っていた側の落ち度もあります。結局A氏にはボスが電話で抗議したものの、公式な処罰などはありませんでした。
学生さんも借りパクする
アメリカの人も借りパクします。夏の間インターンで来ていたよその部署の学生さんは、物品を切らしたので貸してほしいと1回目は許可を取ったのですが、その後黙って部屋に来ては使いたいものを取っていくようになりました。私の物品も黙って持って行っているようだったので、借りパクして立ち去ろうとしていた現場を押さえた時に“もうこれからは部屋に入ってこないでください”と言ってしまいました。
注意するのがストレス
貸し借りも1回や2回なら良いのですが、常習的にモノを持って行かれると本当に困ります。しかも“No”と言えない典型的な日本人の私にとって、何回ヤメテ、返して、もうしないで!とハッキリ言っても借りパクを繰り返されるのが本当にストレスでした。私の言い方が弱いのか・・と悩みましたが、Wさんに強く言った時は“プイ”とそっぽを向いて帰ってしまい、その後2-3日口をきかなくなるので、私が怒っているのは伝わっていたと思います。
日本でも発言小町を見ると、“借りパクさん”や“クレクレ星人”に悩まされている人たちのスレを見かけるので、海外特有の現象ではないはずなのですが、社会人になってから職場でこれほどまで借りパクに悩まされることはありませんでした。アメリカに来てからもなかなかNo!と言えなかった私にとっては、はっきりダメ出しする練習になりました。
借りパクWさんと仲直り
Wさんの借りパク現場を目撃するたびに注意し、時には険悪なムードになったこともあったものの、普段はC国の様子を聞いたり、旅行情報を共有したりして普通に会話していました。ただ、楽しくお喋りしていても、「信用出来ない」「やっぱり嫌い」「相手も私のことを怒りんぼと思っているのでは・・」と、心の中でどす黒い思いが渦巻くことがありました。彼女は借りパクだけでなく、手伝ってほしい時は一日何回もやってきて私に助けを請うのに、私が1度だけ彼女に手伝いをお願いしたら“No”とアッサリ断ったこともあります。
仕事が絡まずに、ただの話友達であれば上手くやれたのかもしれません。自分の目的を達するためには手段を選ばない彼女の態度に嫌気がさしながらも、自分もそれくらいの意気込みを持たなければ・・と思うこともあります。C国出身の方2人がそれぞれに、“自分は上司に雇用されているから上司の話は聞く。同僚と私は雇用関係ではないので気を遣う必要は無い”と話していたのを聞いたことがあります。借りパクWさんやDさんは、自分の任務を遂行する事だけが目的で、同じフロアというだけで同僚でさえなかった私を気遣う必要性を感じなかったのかもしれません。“自分のことだけではなく、仕事が遅れている人や大変そうにしている人の仕事を手伝う”という感覚を持っていた私は親切心を搾取されたような気分でした。
Wさん帰国の日。“あいつはケチで怒りんぼだと思われていたら嫌だ”、“何度もNo!を突きつけて申し訳なかった”という気持ちから、お別れのギフトとしてキティちゃん風呂敷とロクシタンのハンドクリーク2本をプレゼントしました。Wさんが涙ぐみながら、“I’m sorry to have bothered you at work.”と言ったのでしんみりした気持ちになりました。何度注意しても悪びれなく消耗品持ち出しをしていた彼女でしたが、いちおう“迷惑をかけていた”という自覚はあったのね・・と。
連絡先は交換したものの、彼女と会うことはもうないかもしれません。最後に悪感情を持たずにお別れできたので良かったです。ちょっとした“知り合い”として表面的なお付き合いだけならたいした摩擦はありませんが、一緒に働くとなると色々と難しいことがあるんだな・・と良い経験になりました。
【今日の一枚】
ロデオ・オフィス。