【オーディオブック】The Buried Giant 

The Buried Giant (2015) / 忘れられた巨人

時間:11時間48分

発音:イギリス英語

速度:130語/分前後

評価:3.5 out of 5

 

【あらすじ】

アーサー王による統治後、イギリスは深い霧に包まれ、人々は忘却の世界にいた。アクスルとベアトリスの老夫婦は、居住していた共同体の人々から夜間にロウソクを使用することを禁止されたことに納得がいかず、離れた地に住む息子を頼って旅に出ることにした。ところが、息子となぜ離れ離れに住んでいるのか、どこに行けば息子に会えるのかも分からない。全てが忘却の彼方にあり、息子の顔や声さえ思い出せないのだ。それは老夫婦だけの問題ではなく、この地に住む全ての人々の記憶が曖昧だった。

夫婦は旅の途中、サクソンの戦士と孤児、アーサー王の甥であるグウェインと出会い、それぞれが自分の過去と向き合いながら、深い霧の中を進んでいく。

 

【感想】ネタバレあり

深い霧に包まれ、全てが曖昧な物語と同様、読み手も深い霧の中を手探りで進んでいくような物語でした。時代設定は、アーサー王による統治の少し後、6-7世紀頃でしょうか。ブリトン人とサクソン人はかつて争っていたものの、霧のせいで過去の記憶を無くし、現在は共存しています。

 

なぜ人々は過去の事を忘れてしまうのか、戦士と騎士がドラゴン退治に向かうのは何故なのか。物語の意味が後半まで明かされないのがもどかしいのですが、全く過去の記憶がない登場人物たちの不安な気持ちを味わうのもこの本を読む醍醐味なのかもしれません。

 

ここからネタバレ。

 

 

物語が進むと、皆の記憶を消していた“霧”の正体は、雌ドラゴンQuerigの吐く息であったことが判明します。人々の記憶を全て消すことで、ブリトン人とサクソン人の間にある民族的な諍いを忘れさせ、世界に平和をもたらしていたのでした。

 

ドラゴンを退治し、皆の記憶を取り戻す=“The Buried Giant”を掘り起こすことは必要な事なのでしょうか。ドラゴンに記憶を消されたことで、人々は民族間の諍いも忘れ、幸せそうに暮らしているようにみえます。強制的にでも忘れさせた方がよい記憶もあるのではないか・・・と本を読み終わった後も、このストーリーをどう解釈したらよいのか分からずにしばらく考えていました。

 

The Buried Giantが初めてのカズオイシグロ作品だったので、この後Never Let Me Go も読んでから改めて考えてみました。Never Let Me Goは、臓器移植提供者として育てられたクローン人間たちの物語です。彼らは寄宿学校で通常の子供たちのように教育を受けますが、20歳を過ぎると臓器提供プログラムが始まり、30歳頃までには皆役目を終えて死んでしまいます。クローンの子供たちは社会に刃向かう事も無く、静かに運命を受け入れるのです。二つの作品を比べてみると、両作品とも、登場人物たちに人生の選択権はないものの、日常生活においてはそれなりに幸せそうにみえます。ただ、「大多数の人々を幸せにする」「平和を維持する」という大義名分のもと、自由意志を奪われたとしたら、それはもう「人間」として生きているとは言えないのではないかと思いました。その反面、今世界中で起こっている民族紛争や宗教的な諍いを見ると、全人類の記憶を消し去ってしまわない限り平和は訪れないのではないかとも思ってしまうのです。

 

グルグルと考えても結論の出ない不思議な作品でした。実際にはドラゴンが現れて皆の記憶を消し去ったり、臓器採取用のクローン人間を作ったりすることなどあり得ないのですが・・・。

 

共に過ごしてきた記憶が無くても夫婦の絆は保たれるのか、来るべき別れの時が来たらどのような事を思うのか・・・等々、色々と考えさせられたストーリーでした。いい話ではあったものの、ちょっと(だいぶ?)退屈かな…。でも「あー、面白かった」「つまらなかった・・」だけではなく、生き方について考えるきっかけになる本でした。

 

YL: 8 (概算)

語数:87,500語(概算)

 

The Buried Giant

忘れられた巨人

 

【今日の一枚】

21689744180_feb3b3be43_z

アラスカのキノコ

カテゴリー: 文学 タグ: , , パーマリンク

コメントを残す