【オーディオブック】Empire of Pain (2021)

Empire of Pain (2021)

発音:アメリカ英語

時間:18時間6分

評価:5/5

 

2021年度のオバマ氏選書、Goodreads Choice Awards 2021 Best History & Biography 部門Winner など評価が高かった本です。

 

オキシコンチンを世に送り出したサックラー家4代の歴史と、オキシコンチンの発売からパーデュー解散までが描かれてます。面白かった!本の半分ほどはサックラー家の歴史で、お爺さんの代で戦後ヨーロッパから移民してきて、3人の息子が精神科医になり、医療広告業の商売を始めて・・とぐいぐい出世していく勢いにワクワクしました。

 

サックラー一家は、オキシコンチンで稼いだ金の一部を美術館や大学などに寄付し、篤志家として振る舞っていましたが、巨万の富の出所を長い間隠していました。そして、オピオイド処方薬の依存性が明らかになった後も、自分達は悪くない、悪いのは処方薬を悪用する人々だという姿勢を貫いています。ただ、本を読み進めていくと、サックラー家の人々は自分たちが開発した薬に問題があることを把握しながら、依存性はほとんどない安全な薬であると宣伝し、中等度の慢性疼痛に大容量で長期間処方するようドクターに宣伝していたことがわかります。

 

既存の薬の形態が徐放剤になっただけだからとFDAの承認を得る前に販売開始したり、特許が切れそうになったら「今までの剤形は危険だから」と後発品が使えないよう働きかけたりと、自分たちの製品の安全性を高める努力を怠り、とにかく売上を伸ばすために尽力していたようです。

 

パーデュー製薬のオピオイド鎮痛薬は、特別なコーティングのおかげで12時間血中濃度が安定しているので、薬でハイになったり、離脱症状が出にくいとされていましたが、実際は8時間程で効果がきれてしまい、離脱症状が出ることで、使用量が増えてしまうという欠点がありました。

 

さらに、表面のコーティングは簡単に剥がす事が出来たため、錠剤を粉にし、鼻から吸入したり、溶かして静脈注射するなどの違法行為も簡単でした。処方薬では飽き足らず、ヘロイン、フェンタニルなどに移行していく人たちもいたようです。

 

パーデューのセールスマン達は、オキシコドンを売った分だけボーナスや豪華海外旅行などのインセンティブがつき、しかも売上連動ボーナスには上限がなかったため、とにかくドクター達に沢山処方させました。明らかに違法な売り方をしているクリニックの存在も報告に上がっていたようですが、特に対策は取られませんでした。

 

安全であると宣伝されていたオキシコドンで不幸な転機を辿った人々の例も紹介されています。オキシコドンを16歳で処方されはじめ18歳でOD死した子供や、1粒内服して呼吸停止した方もいらっしゃったようです。後にパーデュー社に対して抗議活動を始めた写真家のNan Goldin氏は、手首の腱鞘炎でオキシコドンを40mg処方され内服を開始しましたが、そのうち離脱症状で全身の皮膚が剥がされるような強い痛みが出現するようになり、一日450mgまで増量、それ以上増量してもらえないとなって、ヘロインなどに移行し依存症となったそうです。

 

 

錠剤のオピオイド鎮痛薬は必要だと思うんですよね。癌性疼痛に塩酸モルヒネの持続点滴しかないとなったら、普通の生活を送ることが難しくなる。ただ、ほとんど依存性がないと嘘の宣伝をしたり、コーティングの問題をわかっていながら、稼げるうちに稼ぎきってしまおうという意図が見えるのが悪どすぎて、こんな言い訳が通用するのかと人間性を疑ってしまいました。腰痛などの中等度の慢性疼痛の初手にオキシコドン80mgを勧めるなんて悪魔の所業ではないかとさえ思いました。

 

パーデュー社は2019年に破産手続きを開始しましたが、サックラー一族の罪が問われることはなく、個人の資産も守られたようです。

 

YL:8以上(推定)

語数:159,965 (推定)

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