【オーディオブック】Flying Blind (2021)

Flying Blind  The 737 MAX Tragedy and the Fall of Boeing (2021)

時間:10 時間 45分

発音:アメリカ英語

評価:4/5

“If not boeing, I’m not going“ という標語まであったボーイングがいかに堕落していったかについて書かれたノンフィクション。来年は旅行に行きたいなーという軽いつもりで飛行機の本を選んだら、逆に飛行機に乗るのが怖くなりました。

 

飛行機墜落事故のニュースを見ると、その時は衝撃を受けますが、しばららくすると何が原因だったのか忘れてしまいます。墜落後の原因調査についても、どこかで報道されていたはずなのですが、この本を読むまでボーイング737MAXの墜落原因については知りませんでした。

 

 

2018年10月にインドネシアのライオンエア、2019年3月にエチオピア航空の737MAXが墜落しています。どちらも飛行を安定させるはずのMCASという新しいシステムの不具合が原因でした。MCASの不具合で機首が下を向くように自動制御されてしまい、パイロットがアラームを解除できないと、機体がノーズダイブしてしまうという致命的な欠陥です。

 

 

MCASは新しい機能でしたが、マニュアルには記載されていませんでした。そして経費節減のため、新機体のフライトシミュレーションは行われず、パイロットたちはiPadで1時間程度の動画を見るだけだったようです。インドネシアの飛行機が墜落した時、ボーイングはパイロットによる人為的ミスを疑いました。MCASの不具合があったにしても、訓練を受けた熟練パイロットであれば、危機を回避できたはず、と。

 

 

インドネシアでの墜落事故後、MCASが不具合を起こした場合の対処方法がパイロット達に説明されましたが、MCASについての詳細な説明は無かったそうです。この不具合が起きた場合は10秒以内にスイッチを押さないといけないのですが、ボーイングのテストパイロットのみが時間内に対処できただけで、非公式で行われた航空会社のテストでは現役パイロットは正しい処置が行われるまで50−60秒かかっていたそうです。10秒で対処できなければ墜落するのであれば、この不具合が起こった場合はほとんど対処できなかったのではないかと思われます。

 

 

インドネシアの5ヶ月後に墜落したエチオピア航空では、MCAS不具合のリカバリー処置を試みたものの、制御不能だったそうです。衝突した勢いで地面にクレーターがあき、墜落現場では棺が用意されたものの、いれるものはほぼ何も無かったというほどの事故だったそうです。

 

 

飛行機墜落の原因は様々でしょうけれど、5ヶ月の間隔で同じ不具合が原因で墜落したならば、それはメーカーの責任なのではないでしょうか。この本では、途中からエンジニアの会社ではなく株主のために利益を追求する方針の会社に変化していく過程が書かれていました。

 

 

CEO選定の際は、新卒以来30年以上エンジニアを務め、ボーイングのsoulとまで評された内部から人気のあるMulally氏ではなく、外部からのCEOが選ばれています。内部の人によると、“CEOのように振る舞い、CEOのようなルックス“の外部CEOが好まれたそうです。Mulally氏は部下の女性と不倫中だったというのもネックだったそうですが、このあとMularry氏はFord社のCEOに就任し、会社を倒産の危機から救っています。外部からボーイングにやってきたCEOは、利益追求のため毎年従業員の10%を解雇するようになり、40代以上のベテランが現場から離れていったそうです。 
また、コストカットのためにパーツを作る会社を売却したため、それまでは新しいものを作る時は社内でエンジニアに相談すればよかったものが、弁護士を通じて外注を正式に申し込むなど煩雑な手続きが必要となりました。利益追求を重視するあまり、無理なノルマや納期が設定され、何か問題があっても声を上げにくい雰囲気だったようです。

 

 

飛行機を作る会社であれば、エンジニアの意見が大事だと思うのですが、他所から連れてきたCEOが経費削減や配当増加などを重視するような、普通の企業経営のやり方で通用するものなのでしょうか。通用しないから立て続けに2機墜落するような事故に繋がったのではないかと思いました。

 

 

今のところ日本の航空会社には737MAXはありませんが、2025年以降ANAで導入されるという記事がありました。この本を読む前ならば、「おニューの飛行機!」と喜んで乗ったでしょうが、737MAX以外の選択肢があるならば、しばらく様子見します。

 

YL:8
語数:90,000語(私の概算)

 

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