We Workは、共同作業スペースやオフィススペースの提供を主とする企業で、 2010年にアダム・ニューマンとミゲル・マッケルヴィーによってアメリカで設立され、短期間で急速な拡大を遂げたものの、2023年11月に破産申請を行った会社です。名前だけは聞いたことがあったものの、破産申請ニュースで興味を引かれたので、リーブス・ウィーデマンの「ビリオンダラー・ルーザー」を読むことにしました。
本書は、WeWorkの共同創業者、CEOであったアダム・ニューマンのビジョンに満ちた起業家精神、歯止めの効かない野心、そして資本が生み出したバブルが最終的に崩壊するまでのプロセスを描いた作品です。
アダム・ニューマンの先見性
アダム・ニューマンは、そのカリスマ性と大胆なビジョンで、コワーキングスペースのスタートアップを世界的な現象へと発展させました。ニューマンの優れた点は、単なるオフィススペースの提供にとどまらず、コミュニティやコラボレーション、イノベーションといった物語を売る能力にありました。
彼は、従来の共有ワークスペースという平凡な概念をライフスタイルへと再構築し、「WeGeneration」といった用語を使ってミッション主導の文化を強調しました。
ニューマンは、投資家や従業員、一般の人々に「WeWorkは単なる不動産会社ではなく、テクノロジーによって社会を変える力だ」と信じさせる、ほとんど催眠的な能力を持っていたように思えます。彼は無限の未来像を描き、「世界の意識を高める」という野心を掲げました。この壮大な夢を描き、説得力のあるビジョンを示す能力が、WeWorkの急成長と巨額の評価額を支える鍵となりました。
何が問題だったのか?
しかし、ニューマンの先見性は同時に彼の破滅をもたらしました。WeWorkが拡大するにつれ、ニューマンのビジョンは現実を超えて進んでいきました。特に、日本の投資大手ソフトバンクからの莫大な資金によって、ニューマンは利益を度外視した無謀な成長を追求し始めます。波のプール、学校、住宅コミュニティなど、WeWorkの主事業とはほとんど関係のないプロジェクトを次々と立ち上げ、会社のリソースを分散させました。
ニューマンの衝動的な意思決定や浪費癖、自らのビジョンへの宗教的ともいえる信念が、次第に信頼を損なう原因となりました。プライベートジェットの使用やテキーラを飲みながらの会議といった逸話は、日常業務からますます乖離していくリーダーの姿を浮き彫りにしました。また、実態よりも過剰に誇張された話が目立つようになり、WeWorkのIPOのためのS-1申請で、同社の莫大な財務赤字やガバナンスの問題(ニューマンの過剰な権限や自己取引など)が明らかになったとき、彼の限界が露呈しました。
ソフトバンクが果たした役割
ソフトバンクの孫正義氏は、WeWorkの成功と崩壊の両方において重要な役割を果たしました。当初、ソフトバンクは巨額の資金を提供し、ニューマンの壮大な野心を後押ししました。孫氏の「限りないリソースで革新的な創業者を支援する」という哲学に基づきWeWorkに数十億ドルを投入し、評価額を一時的に470億ドルという持続不可能な水準にまで押し上げたのです。
しかし、この資金提供は危険な悪循環を生み出しました。ソフトバンクの資本によってニューマンの思い付きに際限なく資金が使われ、会社の損失が無視できないものとなりました。IPOの失敗でWeWorkの財務不安が露呈すると、ソフトバンクは全面的な崩壊を防ぐためにさらに高額な救済措置を講じる必要に迫られました。その結果、同社の評価額は大幅に引き下げられ、ニューマンは追放されることとなったのです。当初はニューマンのビジョンを支持していたソフトバンクの姿勢は、最終的に「監視のない過剰な資金供給のリスク」という教訓に変わったのです。
まとめ
本書は単にアダム・ニューマンやWeWorkの物語にとどまらず、カリスマ創業者が偶像化され、評価額が過剰に膨れ上がり、成長を追い求めるあまり財務や規律が犠牲にされる現代のスタートアップへの批評でもあります。WeWorkの盛衰とそこから得られる教訓が描かれており、起業家精神やベンチャーキャピタル、そして制御不能な野心の危険性に興味のある人にとって必読の一冊です。
読みやすさレベル:7.5
語数:98,000語(概算)
