【オーディオブック】Hidden Valley Road (2020) /統合失調症の一族 遺伝か、環境か

Hidden Valley Road (2020) / 統合失調症の一族 遺伝か、環境か

発音:アメリカ英語

評価:5/5

【概要】

第二次大戦後、ギャルヴィン一家は空軍に籍を置く父親の都合でコロラド州に移り住む。ベビーブームを背景に12人の子宝に恵まれた一家だったが、1970年代半ばには子供のうち6人が統合失調症と診断された。厳格な父母によって育てられた容姿端麗で運動能力の高い息子たちは、なぜ次々に精神疾患に見舞われたのか?
一方で、サイコセラピーと抗精神病薬による療法が主流だった当時、遺伝的側面から統合失調症の原因究明や治療・予防法の発見を目指す研究者たちがいた。彼らはギャルヴィン家の人々と出会い、様々な検査等を通じて、統合失調症にかかわる遺伝子を突き止めていく――。

精神医療研究に多大な影響を与えた一家の姿を通して「病」と「人間」の本質を問い、各メディア年間ベストブックを総なめにしたノンフィクション!(Amazonより)

 

【感想】

英語仲間のエミコさんに紹介された本。衝撃的でした。12人きょうだいのうち、6人が精神分裂病を発症した一家のお話です。

 

12人きょうだいというと、貧乏子沢山を想像してしまいますが、ギャルバン一家の父は軍人でポリティカルサイエンスで博士号を取り、母は地元のオーケストラやバレエなどの催事を取り仕切っていた教養のある家庭だったようです。一家はカトリックで、お父さんが子供をたくさん欲しがったため、20年間のうちに12人の子供が生まれました。12人のうち最初の10人は男の子・・家の中は常にすさまじい喧嘩だったそうです。

 

精神分裂病を発症した男の子6人は学生時代はスポーツに打ち込み、大きなトラブルもなく高校を卒業しました。長男のドンが精神を病んだのは、若くして結婚した妻と離婚話が持ち上がった頃でした。青酸カリを入手し、無理心中を図ったのです。妻への暴力や妄想、幻聴などが酷くなり、両親の手に負えなくなったドンは公立の精神病院に収容されてしまいます。

1960年代は、たとえ入院したとしても有効な治療法はありませんでした。原因もわかっておらず、子供を精神分裂病にするのは母親に性格的な特徴があるとされていたそうです。母親のミミは、精神分裂病を発症した子供たちの面倒を見るのに必死で、健常な子供を構う暇はありませんでした。下の女の子2人を次男一家によく預けていたのですが、次男も精神病を発症しており、妹たちに性的虐待をしていたのです。妹たちが成人した後、この問題を母親に打ち明けましたが、「お兄ちゃんは病気だったから仕方がない」「私(母親)も子供の頃におじから性的虐待を受けていた」などとまともに取り合ってもらえず、母娘の関係が拗れてしまいます。12人も子供がいるだけでも大変なのに、そのうち6人が精神病を発症したとあっては、一人一人に手間をかける暇は全くとれず、健常な子供達の心にも傷を残してしまったのが気の毒でした。

 

ギャルヴァン一家は精神病発症者も、健常なメンバーも研究機関にDNAサンプルを提出していたので、技術が発達した30年後に遺伝子の変異が見つかったそうです。ただし、一つの変異=病気の原因という一対一対応の疾患ではないので、治療法を確立出来るわけではないようです。

 

これだけ大変な思いをした本人や家族の話を読むと、これは個人や家族の努力ではどうにかなるものではなく、国や社会の助けが必要だと感じました。数々のエピソードに圧倒されましたが、精神疾患を怖がらせたり、差別を助長するものではなく、苦しみながらもより良く生きようとした一家の話を通じて精神疾患への理解が深まる本だと思います。

YL:8

語数:112,723語(概算)

 

 

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